「売りたい」を消したら、「買いたい」が生まれた|広島のコンサル会社が解説するこれからのAI対策(AEO)
「売れない時代ですね。」
コンサルティングをしていると、今でも本当によく耳にする言葉です。でも、この言葉を聞くたびに、私はある会社と過ごした濃厚な日々を思い出します。
島根県にある、歴史のある老舗の呉服店です。
私がご一緒していた当時、呉服業界はすでに非常に厳しい時代に入っていました。
着物を着る人は減る一方。冠婚葬祭も簡素化され、着物を着る機会そのものが少なくなっていました。当然、売上も伸びません。
そんな中、私が主催していた「Webあきんど養成ジム」の受講生でもあった彼(当時は専務、現在の社長)から、個別に相談を受けました。
最初は「ホームページを作りたい」というご相談だったのですが、私は「今はホームページなんて作っている場合じゃない!」とお断りさせていただきました。(笑)
まずは会社の本当の姿を知るために、現地にお邪魔して空気を感じてみることにしたのです。
そこにあった空気は、一言で言えば「淀んで」いました。
社内には何とも言えない重苦しい雰囲気が漂っており、専務の周りは皆さんピリピリとして、覇気がありません。
朝礼にも参加させてもらいましたが、専務が一人で声を張り上げ、出てくるテーマは数字のことばかり。
営業会社ですから数字を追うのは当然なのですが、社員の皆さんは下を向いたまま、笑顔どころか暗い顔つきをされていました。
「売る」ということが至上命題になっているため、いかに次回のイベントにお客様を呼び込んで、どうやって売りつけるか。
社内の会話は、そればかりだったのです。
そこで私は、「どう売るか」を考えるのを一切やめました。
代わりに考えたのは、「どうすれば、お客様がもう一度着物を着たくなるだろう」ということでした。
当時、お店では着付け教室が始まっていたばかりのタイミングでした。
しかし、その教室の隠れた裏テーマは「着れるようになった生徒さんに、新しい着物を売る(囲い込む)」こと。
私は、その「売るための教室」をやめてもらったのです。
着物を持っていても、自分で着られない人はたくさんいます。だから、まずは純粋に自分で着られるようになっていただく。
お持ちの着物を楽しむことに、100%意識を持って行ってもらう。
着物を売りたいという下心を、まずは捨ててもらいました。
それから、「着る場の提案」と名付けて、着物で行く小旅行を企画しました。
美術館へ行く日。
紅葉を見に行く日。
食事会の日。
さらに、大々的な着物パーティーも開催しました。
つまり、着物を売る前に、眠っている着物を「着る理由」を私たちが作ったのです。
この着物パーティーも、以前の目的は着物を売ることでしたが、それも完全にやめてもらいました。
着物を売り込まれることが分かっていたら、お客様は警戒して楽しめません。
ただ単純に着物を着る場を楽しみ、お互いの着物姿を褒め合い、ゲームに興じることだけに注力したのです。
すると、不思議なことが起き始めました。
不思議なこと、と言っていますが、じつは私は仕掛け人として、この瞬間をずっと待っていました。
「せっかく着付けを覚えたから、普段からも着てみようかしら」
「今度の着物イベントにも、ぜひ参加したいわ」
そんな嬉しい声が少しずつ増え、お客様のタンスの中で何年も眠っていた着物たちが、次々と外へ出始めたのです。
そして最後に始めたのが、「着物のメンテナンス」でした。
着れば、当然汚れます。
その着物をお預かりして、職人の技できれいにしてお返しする。一見すると、単なる地味なアフターサービスです。
でも、この仕組みの本当の価値は、別のところにありました。
メンテナンスに持ってきていただくことで、「お客様がどんな着物を持っていて、何を持っていないのか」が、売り込まなくても自然と分かるようになったのです。
もう、訪問販売のように強引に売り込む必要はありません。
「この帯なら、以前着物メンテナンスでお預かりしたあのお着物にぴったり合いますよ」
「この色合いのものは、まだお持ちではありませんでしたよね」
そうやって、お客様一人ひとりのタンスの中身に合わせた、本当の意味で喜ばれる提案ができるようになりました。
私は当時、この一連の仕組みに名前を付けていました。
「売りたい」を消して、「買いたい」を作る。
今振り返ると、この考え方は呉服業界だけの話ではありません。
ホームページ制作でも同じです。
採用活動でも同じです。
そして、今私が提唱しているAI対策(AEO)でも、全く同じことが言えます。
「どう売るか」「どうやってAIに引っかけさせるか」ばかり考えている会社は、お客様やAIから見れば、ただの透けて見える「売り込み」にしか映りません。
そうではなく、お客様が本当に困っていることを解決し、自社を使う理由や選ぶ理由を丁寧に増やしていけば、人間からも、そしてAIからも自然と選ばれる(買いたい)状態が生まれてくるのです。
私がコンサルティング会社「ミエルカ」を立ち上げた理由も、実はここにあります。
私たちが作りたいのは、時代遅れの売るためのテクニックではありません。
会社の中に眠っている本質的な価値を見つけ、それを必要としている人と正しく繋ぐ仕組みです。
だから今でも、私はクライアントの経営者に最初に聞きます。
「何を売りたいですか?」ではありません。
「お客様は、なぜそれを買いたくなるのでしょうか?」です。
その答えが社内で見つかった時、営業はずっと楽になります。
強引に売り込む必要が、綺麗さっぱりなくなるからです。
35年以上、この仕事を続けてきて思うことがあります。
扱う商品は変わりました。
時代も、テクノロジーも大きく変わりました。
でも、私の仕事の本質は、あの日からずっと変わっていません。
「売りたい」を消して、「買いたい」を作る。
それこそが、私の考えるコンサルティングのすべてです。
カンドウコーポレーションの山本大志が、エンジニア視点でAIについて記事を書いてます。